Éd/zotérique

読書の備忘録

看護者・聖ユリアヌスについて

 ブログ書くのがお久しぶりすぎて、めちゃくちゃ戸惑っています。
2年ぶり、とかさすがに放置しすぎだろ……。
 だいぶ前から、やろうと思っていた翻訳ができましたのでそれについて所感というか、感想みたいなことを書いてみようかと思います。
 翻訳のあとがきにも書いたような内容ですが、ウェブで2万字くらいのものを読むのって、結構骨が折れるので、最後までたどり着ける人は少ないと思われます……。というわけで、概要というか背景知識をさらっとまとめてみました。

 

 翻訳はこちらになります。

note.mu

 noteよりもカクヨムのほうが読みやすいので、若干の修正を入れたものをカクヨムのほうにもUPしました(2017.08.05追記)。
フローベールは海外文学に興味あるかたなら、大抵ご存じだと思います。

ギュスターヴ・フローベール - Wikipedia


 代表作は『ボヴァリー夫人』であり、「写実主義を確立」なんて言われると、近代小説のイメージばかり先行してしまいそうですが(自分もそうでした・汗)、『聖アントワーヌの誘惑』のような伝説を題材とした作品もあります。
『三つの物語』は、タイトルから推測できるように、三つの短い物語(コント:conte)が含まれており、順番に列挙しますと、
1.Un coeur simple(純なこころ)
2.La légende de Saint Julien l'Hospitalier(聖ジュリアン伝=看護者・聖ユリアヌスの伝説)
3.Hérodias(エロディアス=ヘロディアス)
 最初の「純なこころ」は、フローベールが生きた同時代の話なので、ボヴァリー夫人に雰囲気的にも近いものがあると思います。この中に出てくる晴雨計について、小説における描写との関わりで、ロラン・バルトがなんかいろいろ書いていたりするのですが、これはまあ余談です。
 二番目は看護者・聖ユリアヌスという中世に生きた聖人のお話。こちらはフローベールの故郷であるルーアン大聖堂のステンドグラスにその物語が描かれています(作品をご参照ください)。ルーアンの大聖堂はクロード・モネが連作を描いていますので、そちらのほうがよく知られているかと思います。

クロード・モネ-ルーアン大聖堂、扉口とアルバーヌの鐘塔、充満する陽光-(画像・壁紙)


 ちなみに残念なことに、ルーアンは行ったことがなくて、実物も目にしておりません。こちらの方が写真をUPされています。
 最後の「エロディアス」は、ヘロディアス。ヘロディアの娘、サロメといえば、有名なので説明は不要でしょう。こちらは同じくルーアン大聖堂の正面入口のティンパヌムに彫り込まれているようです(上記サイトに同じく写真があります)。
 
 今回、練習として訳したのは、二番目の「聖ジュリアン伝」です。フランス語読みすればジュリアンですが、ラテン語読みではユリアヌスとなります。ユリアヌスと言われると、辻邦生の小説でも有名な背教者ユリアヌスを連想してしまうかもしれませんが、背教者のほうではありません。こちらは古代ローマの皇帝なので、時代がまったく違います。
 看護者ユリアヌスは、中世に生きたとされる聖人です。
 
看護者・聖ユリアヌス(ジュリアン)とは:
「聖ジュリアンはその生涯の物語の大半が伝説とされる人物である。どこまでが史実なのかは不明である。大工、旅籠屋、そして渡守の守護聖人であり、鷹と剣がこの聖人のアトリビュートとされている」(Wikipedia, "Julien l'Hospitalier")
 
 Wikiによると『黄金伝説』によって中世に広範に広まった伝説だとのこと。
 物語の中では、伝えられている伝説とは異なり、親殺しの後、奥さんと別れ一人で旅立ったことになっています。中世を舞台とした物語なので、ラテン語名の「ユリアヌス」ではなく、フランス語読みで「ジュリアン」としました。
 作中に出てくる黒い鹿は私が思うに、シシ神ではないかと思う(笑)。聖人伝には、主にケルトの異教的な名残や痕跡が見られることが多いので、もしかしたらケルトの伝承にも出てくるケルヌンノスとか森の神のような存在なのかもしれませんね。聖人伝やカレンダー(聖人の日)とパガニスム(異教信仰)の関わりについては、ヴァルテールのこちらの本が大変おもしろいです。
 

nefou55.hateblo.jp

 

 ヴァルテールの著作はこれ以外は翻訳が出ていないようなのですが、アーサー王伝説についてもたくさん書かれていて、どの著作も非常に示唆に富み、興味深い指摘が多いです。これについても、ぼちぼちまとめられたらいいな、と思っています。だいぶ前からこれもやろうと思いつつ、忙しさにかまけてできずにいましたので、今後の課題です。ちなみに、ヴァルテールによるとアーサー王は熊だそうです(!)
 

 参照した既訳: 

三つの物語 (岩波文庫)

三つの物語 (岩波文庫)

 

 参考図書:

黄金伝説 1 (平凡社ライブラリー)

黄金伝説 1 (平凡社ライブラリー)

 

 

中世の祝祭―伝説・神話・起源

中世の祝祭―伝説・神話・起源

 

 

 ここまでお読みいただきどうもありがとうございました。

 

 

 

ケルズの書と彩飾写本について

 

ケルズの書――ダブリン大学トリニティ・カレッジ図書館写本

ケルズの書――ダブリン大学トリニティ・カレッジ図書館写本

 

 『ケルズの書』というのは、8世紀頃に成立したとされる彩飾写本であり、世界で最も美しい本とも呼ばれている。『ケルズの書』自体は、ラテン語で書かれた四福音書の本文写し(ウルガタ版聖書の「アイルランド」系統版)と装飾とから構成された未完の書物だが、その制作には様々な年代の複数の人々が携わっており、この意味で複数性の書物とも言いうると思う。ミーハンによる本書『ケルズの書』は、『ケルズの書』本文の翻訳ではなく*1、この謎めいた写本の研究解説書である。成立の事情、当時の歴史的背景や四福音書、頁に施された装飾の象徴性、写字生や制作に用いられた道具などについて、最新の研究成果を踏まえて順次解説を施している。

 

 ケルズの書をケルズの書たらしめているものがあるとしたら、やはりそれは組紐や渦巻きといった、独特の装飾だろうと思う。十字架、菱形、三点文様などの抽象的な図形や、もう少し具体性を帯びたものとして、4人の福音書記者や動物などの装飾がある。本文は福音書なので、当然ながら描かれているものもキリスト教と深くかかわっている。十字架は言わずもがなだろうけれど、三点文様は三位一体を、菱形はキリストや宇宙、神の言葉を表すらしい。四辺によって、四福音書記者、四方位、四季、四体液、四元素などを象徴している。

 

 描かれている動物もやはり象徴的な意味合いを施されているようで、中世の動物寓意譚(ベスティアリ)を引き合いに出しながら*2、本文と装飾との相関関係について述べられた箇所がことに面白かったですね。例えば、『フィシオロゴス』の中に、死んだ状態で生まれた子ライオンが3日後、親ライオンに息を吹き込まれて目覚めるというエピソードがあるが、それをキリストの復活になぞらえて、本文の傍らに獅子の装飾が添えられていたりする。

参考: 「動物寓意譚

 4人の福音書記者(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ)は、『エゼキエル書』の記述に従い、人間、獅子、牛、鷲でそれぞれ表される。この4人は言うまでもなく、基本中の基本の図像だと思うけれど、いつも忘れちゃうので、この場を借りてメモっておきます。聖マルコはヴェネツィア守護聖人ヴェネツィア共和国の国旗は有翼のライオンですよね(ということだけは憶えていた)。

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/72/Lion_col_saint-marc_082005.jpg/220px-Lion_col_saint-marc_082005.jpg

 

 また、写本の物理的側面、ことに顔料について書かれた章も大変に興味深かったです。中世の青色はこれまでずっとウルトラマリン、すなわちアフガニスタン産のラピスラズリを原料とした顔料だとされていたのだが、どうやらこれは誤りであるらしく、分析の結果によると、『ケルズの書』(や『リンディスファーン福音書』)で用いられている青は、むしろインディゴや大青といった地元アイルランドで入手可能な顔料らしい。海の彼方からはるばるもたらされた貴重で希少な青、「ウルトラマリン」というのは、結局のところただの神話だったということですね。ファンタジー脳な当方は、事実に少しだけがっかりしました(笑)。

 

 ケルズの書の彩飾に用いられている顔料に、石膏、緑青、石黄があるが、これらはみなプリニウスの『博物誌』にすでに言及があるので、古代にも用いられていたそうです。

 ところで、写本の挿絵のことを「ミニアチュール」と言いますが、この語は「細密画」と訳されているけれど、実は赤色インクの「ミニウム」(鉛丹)を語源としており、サイズがミニだからというわけではない。

参考:「ミニアチュール

 

 実物が見れればベストだろうけど、なかなかダブリンまでは足を運べないので、有料とはいえiPadアプリもあるので、こちらでじっくりと眺めるのも良いかと思います。

The Book of Kells

The Book of Kells

  • Kells Technologies Ltd.
  • 教育
  • ¥1,400

 同性婚が合法化されたというし、ますますアイルランドという国には好感度高しです(当方ヘテロですが、マイノリティに寛容な国が好きですので…)。

 

参考図書:

ケルト 装飾的思考 (ちくま学芸文庫)

ケルト 装飾的思考 (ちくま学芸文庫)

 

 

ヨーロッパ中世象徴史

ヨーロッパ中世象徴史

 

 

 

 

*1:最初、本文の翻訳なのかと思ってた…本文は結局のところ福音書だからそんなわけない

*2:『ケルズの書』が主に参照している動物寓意譚は『フィシオロゴス』とイシドールスの『語源論』

グエルチーノ展とバロック等

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グエルチーノはあまりよく知らなかったのですが、「バロック」の語につられて見に行ってきました。グエルチーノは本名ではなく、「やぶにらみ」という意味の綽名なんですね。なんか中二くさいと思ってしまいました(笑)。

バロック芸術は、プロテスタント側の宗教改革に対抗して起こった、カトリック側の対抗宗教改革を歴史的背景としています。カトリックの権威を高めるために芸術を利用したわけですが、こうして生まれたのがバロックという様式ということだろうと思う。


こちらの記事によると、対抗宗教改革バロックはほぼ同義とみなしてよいそうです。

参考: 対抗宗教改革とイタリアの斜陽 ―17世紀ヨーロッパの美術 ―


バロックというのは、語源的にはポルトガル語で「歪んだ真珠」という意味ですが、顕著な明暗の対比や劇的な効果、過剰すぎる装飾などを特徴としています。

バロックという語は、真珠や宝石のいびつな形を指すポルトガル語barrocoから来ている(バロック - Wikipedia

 

バロック芸術ではわたしはベルニーニの彫刻が好きなんですが、襞の表現が本当にみごとです。

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e4/Teresabernini.JPG/220px-Teresabernini.JPG

 天使*1の矢に射抜かれたアヴィラ聖テレジアのこの陶酔の表情がたまらないです(確か種村季弘澁澤龍彦あたりが、アヴィラのテレジアをめぐって毒吐いてた記憶…どれだったかな…)。グエルチーノの絵画も襞の表現が精緻で実に巧みでした(自分でも少しだけ絵を描いたりするんですけど、襞って結構難しいですよね)。

特にこの絵の襞をジロジロ眺め回してきましたとも! 

http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/img/im_2015guercino3.jpg

 

演劇作品ではシェイクスピアコルネイユカルデロンなどがバロック演劇と言われるようですが、それと対極に位置づけられるのが古典主義ですね。こちらはラシーヌなんかが典型的なんだろうけれど、ラシーヌはかなり嫌いです(笑)。コルネイユカルデロンは以前から読もうと思いつつ、まあ例によって例の如しですわ。


そういや、パスカルキニャールバロック芸術について書いてなかったっけ? とふと思い出しまして、記憶の奥底をゆるゆるとさらっているうちに、こういう記事にたどり着きました。

パスカル・キニャールとマニエリスム(1) | 新・十勝日誌


筆が滑って、キニャールの触れているボージャンの絵がルーヴル展にも来てた、とかなんとかうっかり書いちゃったんですが。ルーヴル展のはこちら「チェス盤のある静物」でしたね。

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0b/Lublin_Baugin_Die_fuenf_Sinne.jpg/220px-Lublin_Baugin_Die_fuenf_Sinne.jpg

初めてパリのルーヴル美術館を訪れた頃は、なぜかバロックがマイブームで、ボージャンの絵(特にキニャールの触れている「ゴーフレット」のほう)とジョルジュ・ラ・トゥールをやたらと網膜に焼き付けた記憶があります(笑)。

 

そういえば、展示作品のなかにはヴァザーリの絵もありまして、ヴァザーリというと『列伝』のイメージが強すぎるあまり、一瞬ポカンとほうけてしまいましたね。えっと、なぜここにヴァザーリ? という感じで(われながら戸惑うにも程がありますが。完全に列伝のイメージで刷り込まれてました)。

 

ゲーテが『イタリア紀行』のなかで、かなりグエルチーノには触れてるようです(賛辞が多いらしい)。スタンダールと合わせ、そろそろこれも読まないとな……。

 

ついでに見た常設展入り口付近では、ロダンバルザックを拝んできました。

http://collection.nmwa.go.jp/artize/l/0004180012L.jpg

バルザックはね、ブサメンモテ男の元祖なんだぜ……。
ブサイクなのにモテる理由……それはおそらく動物磁気のゆえです(真顔)。

 

参考図書:

イタリア紀行(上) (岩波文庫 赤405-9)

イタリア紀行(上) (岩波文庫 赤405-9)

 

 

ヴュルテンベルクのサロン

ヴュルテンベルクのサロン

 

 

魔の眼に魅されて―メスメリズムと文学の研究 (異貌の19世紀)

魔の眼に魅されて―メスメリズムと文学の研究 (異貌の19世紀)

 

 

 

 

*1:「天使」の語源はギリシア語の「アンゲロス」で「伝令」「使いの者」の意。

ひの新選組まつりに行ってきた

 

といいつつ、祭りよりもこちらの副長の写真が見たかったんですよ。

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この期間だけは佩刀の刀身も見られますし。
和泉守兼定のほうは、来週また土方歳三資料館まで足を運ぶ予定(日野宿本陣方面だけで疲れてしまうので、2回に分けて行くことにしたお年寄りです 笑)。
前回行った時はうっかりスルーしちゃった井上源三郎資料館と佐藤彦五郎資料館をメインに見てきました。

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当初、写真も土方歳三資料館のほうにあると思ってた粗忽者です。

鉄之助が彦五郎さんのところまで持ってきたのだし、よく考えたら当たり前。一年に一回しか公開されないので、記憶のネガにしっかり焼きつけてきました。
歯型はオリジナル写真ではわからないというか、レプリカのほうには残っているとかなんとか、資料館の人が言っていた気がする。
歯型の話は確かこの本の中にあったと思う(うろ覚えなんだけどね…)。

史伝 土方歳三 (学研M文庫)

史伝 土方歳三 (学研M文庫)

 

※参考:  土方歳三資料館4,Hijikata Toshizo Shiryoukan

 

日野宿本陣のガイドさんの話がなかなか興味深かったので、こちらもまた後日行く予定です。
ふるさと歴史館も行ったのですが、企画展の『21世紀の新選組』は乙女がやたらとキャッキャウフフしすぎていて、ついていけませんでしたー(ノリ的に)。まあそれはそれで面白かったですけど。
『北走新選組』とか『銀魂』の複製原稿が見られたのは嬉しかったです。


来年はぜひ「箱館五稜郭祭り」に行きたいものです。

箱館五稜郭祭*公式サイト - Hakodate Goryokaku-Sai

今年は今週末開催されるようですが、今から飛行機の手配をするのは無理なので……

 

ところで、山風の明治ものを読んで以来、自由民権運動などにも興味があり、こちらの本なんか面白そうだと思ってます。佐藤さんのブリュ子の本と合わせて、近々読んでみよう。

未完の「多摩共和国」―新選組と民権の郷

未完の「多摩共和国」―新選組と民権の郷

 

 参考: 五日市憲法 - Wikipedia

 

ラ・ミッション ―軍事顧問ブリュネ―

ラ・ミッション ―軍事顧問ブリュネ―

 

 

 

欲望の隠喩としての獣、あるいは欲望の具現としての魔物

なんか油断してるとまたつい放置になってしまいます。ブログ持ってる意味あるのかなあと思いつつ、メディアマーカーより転載です。

こちらのサイト(書評でつながる読書コミュニティ - 本が好き!)でも書評という名の感想文を書いているのですが、2級に昇級して早速、献本を申し込んだら2回目で当たりました。

 【感想】

 数年ぶりの再読。意外と内容はあまり憶えておらず、一文一文を味読するように、文字通り言葉を味わいながらの読書となりました。タニス・リーの書くものは決して一筋縄ではいかない。昨今のわかりやすさを志向する文章であれば、ただ一言「~した」で済む行為を、譬喩と修飾を連ねながら重層的なイメージによって、描き出そうとするので。
 本書、『幻獣の書』はエメラルドとアメジスト、緑と紫を基調として、古代ローマ時代にまで遡るデュスカレ家の呪いを描き出す。デュスカレの屋敷に下宿することになった大学生ラウーランは、そこにいるはずのない若い女と出会う。彼女、エリーズが詳らかにする夫エロス・デュスカレとの破局の物語。中盤に挿入された「紫の書 紫水晶を出でて」は、ガロ・ローマン時代のパラディスにおいて、ローマ軍人ウスカが魔物の呪いを受けるに至る顛末を語る。
 パラディスというのはパリのパラレルワールドであるのだが、シリーズの他の作と同様、実在のパリと同じ歴史を背負っている。現実のパリはエジプトのイシス女神と由縁のある街なのだが、特に本書中のローマ時代の話には、イシス神殿などが登場することもあり、しきりとバルトルシャイティスの『イシス探求』を連想した。
 本書の原題は、「The Book of the Beast」だが、魔物の呪いのそもそもの発端が、ローマ軍人ウスカがクリストス教徒(キリスト教徒)の奥さんとうまくいかず、娼婦の元を訪れたことに発していることを考えれば、『幻獣の書』における〈獣〉とは性欲のもつ悍ましさ、恐ろしさといったものを虚構という大いなる比喩によって表そうとしたものだと言いうるかもしれない。
 そして、やはり浅羽莢子さんの訳文が素晴らしすぎて、もう浅羽訳による新訳タニス・リーが読めないのが、返す返すも惜しい。

 

【参考図書】

イシス探求 バルトルシャイティス著作集 (3)

イシス探求 バルトルシャイティス著作集 (3)

 

 

あと、以前からこちらの本も読もうと思ってたんだけど、ローマの話が出てきて興味が湧いたついでに読もうかしら。

ミトラの密儀

ミトラの密儀

 

 

 

 

 

キリスト教のなかにひそやかに息づく古代異教の神々の声

読んだ本の感想は終始一貫してメディア・マーカーでまとめているんだけど、なにやらすっかりご無沙汰になってしまったので、これからはこちらのブログにも書こうかなと思っています。重複することになるので、MMのほうはメモ的に使用するだけにするかもしれません。

中世の祝祭―伝説・神話・起源

中世の祝祭―伝説・神話・起源

 

 聖人信仰とは、キリスト教定着以前に存在した宗教の多神教を好む傾向を、キリスト教一神教という枠組みにとりこもうとしたものだと考えられる。

 第4章「インボルク祭」の聖ヴァランタン(ウァレンティヌス)にかんして書かれたこの言葉に、本書のすべてが要約されていると思う。キリスト教文化圏に滞在したことのあるひとなら、聖人の祝日や、それにまつわる儀礼や風習があることは知っているだろうけれど、時にあまりにもキリスト教らしくないことに、疑問を感じたことがあるのではないだろうか。クリスマスの樅の木なんていかにもキリスト教らしくないし、ハロウィーンがその最たるものといえるが、カルナヴァル(カーニヴァル)や聖ヨハネの火など、いかにも異教の匂いがする。以前から、このようにキリスト教のなかに吸収されてはいながらどこか異教の要素を残した暦上の風習などに興味があったので、本書はその意味で存分に好奇心を満足させてくれた。

 キリスト教布教の過程で行われた異教の隠蔽、いいかえれば異教信仰との習合の痕跡を、キリスト教的な儀礼・習俗のなかに読みとることができる。著者のヴァルテールは中世文学の専門家なので、クレチアン・ド・トロワなどの中世文学をはじめとし、民俗学的な著作や民話、キリスト教の聖人伝(代表は『黄金伝説』)などなどを参照しつつ、こういったものの背後に見え隠れする異教の神々の姿を丹念に明らかにしていく。その分析は精緻かつスリリングだ。

 フランスが中心なので、いきおい異教といってもケルトが中心となるが、悪魔がたいていケルトの神々や妖精であるという点も説得力に富んでいる。時おりさすがに牽強付会ではないかと思われる箇所もなきにしもあらずとはいえ、読み手のほうの知識が足りなくて、こじつけであるかは残念ながら判断しえないところ……。ヴァルテールの著作はあまり翻訳が出ていないようで、他を読みたければ原書を当たるしかないのがとても残念。

 

関連書籍:

『フランス中世文学集(1~4)』(白水社

信仰と愛と    フランス中世文学集 1

信仰と愛と フランス中世文学集 1

 

 ヤコブス・デ・ウォラギネ『黄金伝説(1~4)』(平凡社ライブラリー

黄金伝説 1 (平凡社ライブラリー)

黄金伝説 1 (平凡社ライブラリー)

 

 

西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇 (講談社学術文庫)

西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇 (講談社学術文庫)

 

 

祭暦 (叢書アレクサンドリア図書館)

祭暦 (叢書アレクサンドリア図書館)

 

 

アイルランド地誌 (叢書・西洋中世綺譚集成)

アイルランド地誌 (叢書・西洋中世綺譚集成)

 

 

十二の恋の物語―マリー・ド・フランスのレー (岩波文庫)

十二の恋の物語―マリー・ド・フランスのレー (岩波文庫)

 

※ 特に「ギジュマール」が重要。

 

西洋中世奇譚集成 聖パトリックの煉獄 (講談社学術文庫)

西洋中世奇譚集成 聖パトリックの煉獄 (講談社学術文庫)

 

  ※中世人の死生観を探るにはこちらの本が必読かもしれない。

 

 

【超入門】切り絵の始め方

 

趣味で切り絵を始めてみた当方ですが、なにげにけっこうハマっています。身近にある道具で簡単に始められるのがいい! あと、すでにできている図案をコピーしたり、ネットで見つけた絵をちょろっと加工すれば下絵として使えるのが非常に楽でいいと思います。なので、絵を描くことに抵抗がある方も大丈夫。絵心がなくとも基本的に少しの器用さと根気(これが一番大事)があれば、誰にでも始められます。

というわけで、切り絵の始め方について、備忘録を兼ねてとりあえずまとめておきました。

 

道具をそろえよう

まずは道具をそろえることから。そりゃ道具がなければ、なにも始まりません。入門の第一歩はここからです。切り絵には基本的にカッターで切る切り絵(日本で普及しているのはむしろこっち)とハサミでチョキチョキ切っていく切り絵(レース切り絵)があります。後者は特殊なハサミが必要なので、今回紹介するのは前者のカッター方式です。

道具(必要最低限)
  • カッター(アートナイフ)
  • カッターマット (→ダンボールなどでも代用可)
  • 黒い紙(画用紙、色上質紙など)
  • コピー用紙(下絵)
  • マスキングテープあるいはセロハンテープ(下絵を黒い紙に固定する。ホチキスでもよい)
  • ハサミ
あったらいいかも:(なくてももちろん可)
  • 精密ハサミ
  • ピンセット
  • 黒のマジック
  • のり
  • 台紙

 

下絵の準備

とりあえず最初は市販の図案集をコピーして使いました。使用した本はこちらです。

切り絵作家gardenの 草花と動物の切り絵図案集

切り絵作家gardenの 草花と動物の切り絵図案集

 

収録されている図案のうち何枚かコンビニでコピーし、それを下絵をとして使用しました。まずは絵の周りの余白部分をカットし、マスキングテープで固定します。つぎに、黒い紙の余分なところもまた、ハサミで切り落とします(邪魔になるので)。こういう感じです(↓)。

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切ってみよう

準備ができたら早速切ってみましょう。コツは中心から周縁のほうへと向けて放射状に小さなパーツから切っていくこと。あと、線の交差する部分はクロスするようにしてカットする。この点だけしっかり守るようにすれば、だいたいうまく切れると思います。なんて偉そうに言ってるけど、細かいパーツは引っ張ってみたら切れてなくて、繊維がぼそぼそ残ってしまうことが多いです……精密バサミでカットしたりして誤魔化しているという(´・ω・`)

切り方のコツをつかんだらあとは上記の手順を守りつつひたすら切っていくだけです。輪郭を最後にカットして完成です。地味な作業ですし、めちゃくちゃ肩も凝りますが頭を空っぽにするのにいい気がします(モヤモヤしてるときなんかいいかも?)。

 

できあがった切り絵: 

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(こちらが一番さいしょに切ったものです。厚みのある黒画用紙だったので指が筋肉痛に(((( ;゚д゚))))

 

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(台紙がクリーム色なんですが、白にしか見えないですね^^;;)

台紙を変えたり、フレームに入れてみたりすることでも、アレンジがききます。スキャナーで取り込んで、デジタルで色づけというやり方もあるそうでボチボチいろいろ試してみる予定です。今回は下絵はコピーでしたが、自分で描いて下絵にしてももちろんOKです。

 

道具リスト

リストアップした道具は文房具屋さんでも手に入ると思いますが、面倒なので私はAmazonで黒い紙以外はすべてポチしてしまいました。「よく一緒に購入されている……」ってやつでまとめ買いです(笑)。

 

OLFA アートナイフ 10B

OLFA アートナイフ 10B

 

 

OLFA カッターマット A4 134B

OLFA カッターマット A4 134B

 

 

黒の紙だけは下記で購入しました。

レビューを読んだら切り絵用に購入している人が多数。ほぼそれ専用です(笑)。当初は100均の黒画用紙を使いましたが、厚くて切るのが大変だった(力がいる)ので、こちらを使用することにしました。

 

別手法もある

道具が手に入れやすいということで、一般に普及しているカッタータイプの切り絵を紹介しましたが、同じようにカッター使用の切り絵でも下絵を直接カットしてその後、マジックやスプレーで色をつける手法もあるそうです。こちらについてはまだ試していないので、試してみてから後日ご紹介しますね。