Éd/zotérique

読書の備忘録

ウフィツィ美術館展を観に行く

小雨ちらつく寒さの日々つのる晩秋に、フィレンツェの黄金時代に思いを馳せつつ、ウフィツィ美術館展を鑑賞しました。

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チラシのサンドロ・ボッティチェリの「パラスとケンタウロス」の絵のせいで、異教的なモチーフ(ギリシアローマ神話)の作品が多いのかと思い込んでいたのだが、むしろ宗教画が中心のよう。「マニエラ・モデルナ」というのは、16世紀の新様式をさしてヴァザーリが案出したことばなので、ルネサンス後期、サヴォナローラ神権政治以降が展示品の中心と思えば得心がいく。

ボッティチェリの絵(彼に帰せられているもの含め)も宗教画、とりわけ聖母子が多かった。なぜ聖母子がという点については、作品を見て廻っている間は特に考えもしなかったのだけれど、フィレンツェ守護聖人が洗礼者聖ヨハネだから彼にまつわるエピソードということで、聖母子画が多いのではと推測。洗礼者ヨハネは、聖母子画のなかでは幼子イエスよりも少しだけ年上の幼児として描かれることが多いみたいで、代表的なアトリビュートとして細長い十字架があげられる。

Wikiによれば、彼を描いた伝統的主題の一つに「聖母子と少年ヨハネ」があるとのこと。

聖母子と少年ヨハネルネサンス以降、西方教会で描かれるようになった主題。「神の子羊」と組み合わされることも多い。

時代的にも今回の展覧会と合致しているわけですね。ちなみに洗礼者ヨハネバプテスマのヨハネとも言われ、サロメによって首を斬られたあの人物とも同一。

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(※サロメが首を所望しておきながら、視線を逸らしているのがなんか気になる)

そしていつも思うが、こういうものは歴史的背景を知っていれば、さらに楽しめるのだろうな……。そもそもウフィツィ美術館自体が、「初代トスカーナ大公コジモ1世の治世下、ジョルジョ・ヴァザーリの設計で1560年に着工し、1580年に竣工したフィレンツェの行政機関の事務所がもとになっている」(Wikipediaウフィツィ美術館」)わけであるし、メディチ家の歴史はフィレンツェの歴史と一体なので、ロレンツォ豪華公(イル・マニーフィコ)の頃からトスカーナ大公国誕生くらいまでのフィレンツェ史を押さえてから見に行ったほうがよかったな、と後で思いましたね。漫画『チェーザレ』を読んでいたので、少しは予備知識があったけど(笑)。

あと、ふと思ったのは、天使の翼ってなんとはなし真っ白なものを連想しがちだけれど、実はかなりカラフルなんだということ。これは虹色とでも言ったらよいのだろうか。このあたりももう少し調べてみたい。衣服の赤色も非常に鮮やかでした。どういった顔料を使っているのかも気になるところ。

そして、やはり図像学的(イコノグラフィー的)な知識の必要性をひしひしと感じる。別に研究やってるわけじゃないけれど、一般教養として知っておきたいというか。きっと誰がどの聖人ということがわかれば、さらに面白いのだろうしね。聖書の知識が必須なので、まあそろそろちゃんと読みましょうよって結局そうなるわけですが。

購入したこちらのポストカードの絵のなかの右側、鍵を持っている人物は聖ペテロですね。

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ボッティチェリなんかの作品を、東京で見られるのは本当に幸運と思うけれど、やっぱり現地で歴史を間近に見ながら鑑賞したいものです。フィレンツェの街を歩きまくってスタンダール症候群よろしくくらっと失神してみたい。路上で倒れる気?!*1

ところで、家系図を見ていて、はたと思い当たったのだが、漫画『チェーザレ』に出てくるジョヴァンニ閣下って要するに後のレオ10世のことですね。

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漫画から歴史人物を特定するという逆転の発想(笑)。ショップに『チェーザレ』グッズが少し置いてありニヤリとしました。

 

関連図書:

芸術家列伝2ボッティチェルリ、ラファエルロほか (白水Uブックス1123)

芸術家列伝2ボッティチェルリ、ラファエルロほか (白水Uブックス1123)

 

 

フィレンツェ (講談社学術文庫)

フィレンツェ (講談社学術文庫)

 

 

聖書と神話の象徴図鑑

聖書と神話の象徴図鑑

 

 

ルネッサンスの光と闇―芸術と精神風土 (中公文庫)

ルネッサンスの光と闇―芸術と精神風土 (中公文庫)

 

 

 

*1:※でもWikiの「スタンダール・シンドローム」の項をみたら日本人はあんまりとか書かれていてちょっとがっかりした(笑)。

ルネサンスの隠秘学・神秘思想―必読文献まとめ―(研究書編)

引越のためバタバタしていたので、ようやく今頃になって研究書編をまとめてみました。自分向けにかな~りセレクトしてます。こんなものでも参考になれば幸い。

 

ルネサンスの古典的研究

ブルクハルト『イタリア・ルネサンスの文化』(原典のほうにも引用しました)

ホイジンガ『中世の秋』※途中で放り出した記憶…

中世の秋〈1〉 (中公クラシックス)

中世の秋〈1〉 (中公クラシックス)

 

 

ウォルター・ペイター『ルネサンス―美術と詩の研究』

ルネサンス―美術と詩の研究 (白水uブックス)

ルネサンス―美術と詩の研究 (白水uブックス)

 

 

■歴史と文化

ガレン『ルネサンス人』

ルネサンス人

ルネサンス人

 

 ピーター・バーク『イタリア・ルネサンスの文化と社会』

新版 イタリア・ルネサンスの文化と社会

新版 イタリア・ルネサンスの文化と社会

 

 ――『ルネサンス』(岩波書店

 ラバンド『ルネサンスのイタリア』(みすず書房

 

ルネサンスの思想と文化

フランセス・イエイツ『魔術的ルネサンス』(晶文社

――『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統』

ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統

ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統

 

 

ウォーカー『ルネサンスの魔術思想』(平凡社

 ――『古代神学』(平凡社

古代神学―十五-十八世紀のキリスト教プラトン主義研究 (ヴァールブルクコレクション)

古代神学―十五-十八世紀のキリスト教プラトン主義研究 (ヴァールブルクコレクション)

 

 

ミルチア・エリアーデルネサンス哲学』(未来社

エウジェニオ・ガレン『イタリアのヒューマニズム』(創文社

――『ルネサンスの教育』(知泉書館

――『イタリア・ルネサンスにおける市民生活と科学・魔術』(岩波書店

――『ルネサンス文化史』(平凡社

クリステラー『ルネサンスの思想』(東京大学出版会

――『イタリア・ルネサンスの哲学者』(みすず書房

ウェイン・シューメイカー『ルネサンスのオカルト学』(平凡社

エルンスト・ブロッホルネサンスの哲学』(白水社

 

パオロ・ロッシ『魔術から科学へ』(みすず書房

魔術から科学へ (みすずライブラリー)

魔術から科学へ (みすずライブラリー)

 

――『普遍の鍵』(国書刊行会) 

――『哲学者と機械』(学術書房)

 

■思想と科学

チャールズ・ウェブスター『パラケルススからニュートンへ』(平凡社

パラケルススからニュートンへ―魔術と科学のはざま (平凡社選書)

パラケルススからニュートンへ―魔術と科学のはざま (平凡社選書)

 

トーマス・クーン『コペルニクス革命』(講談社学術文庫

アレクサンドル・コイレ『閉じた宇宙から無限宇宙へ』(みすず書房

――『コスモスの崩壊』(白水社

アレン・ディーバス『ルネサンスの自然観』(サイエンス社

ポーラ・フィンドレン『自然の占有』(ありな書房)

自然の占有―ミュージアム、蒐集、そして初期近代イタリアの科学文化

自然の占有―ミュージアム、蒐集、そして初期近代イタリアの科学文化

 

 

■思想と芸術 ※自分にはやはりこのあたりが最重要かと

アビ・ヴァールブルク「著作集」(ありな書房)

エドガー・ウィント『ルネサンスの異教秘儀』(晶文社

――『シンボルの修辞学』(晶文社

ルドルフ・ウィットカウワー『ヒューマニズム建築の源流』(彰国社

――『アレゴリーとシンボル』(平凡社

アレゴリーとシンボル―図像の東西交渉史 (ヴァールブルクコレクション)

アレゴリーとシンボル―図像の東西交渉史 (ヴァールブルクコレクション)

 

 

クリバンスキー、パノフスキー、ザクスル『土星とメランコリー』※めちゃくちゃ面白いです!ただし図書館オンリー

土星とメランコリー―自然哲学、宗教、芸術の歴史における研究

土星とメランコリー―自然哲学、宗教、芸術の歴史における研究

 

ゴンブリッチ『シンボリック・イメージ』(平凡社

フリッツ・ザクスル『シンボルの遺産』

シンボルの遺産 (ちくま学芸文庫)

シンボルの遺産 (ちくま学芸文庫)

 

ザクスル&ウィトカウアー『英国美術と地中海世界』(勉誠出版

――『イメージの歴史』(ブリュッケ) 

 

アンドレ・シャステル『ルネサンス精神の深層』

ルネサンス精神の深層 (ちくま学芸文庫)

ルネサンス精神の深層 (ちくま学芸文庫)

 

ジャン・セズネック『神々は死なず』(美術出版社)

グウェンドリン・トロッテン『ウェヌスの子どもたち』

ウェヌスの子どもたち―ルネサンスにおける美術と占星術

ウェヌスの子どもたち―ルネサンスにおける美術と占星術

 

 

アーウィンパノフスキーイデア』(平凡社

――『〈象徴形式〉としての遠近法』(哲学書房)

――『ルネサンスの春』(思索社

――『イコノロジー研究』(美術出版社)

――『視覚芸術の意味』(岩崎美術社)

マイケル・バクサンドール『ルネサンス絵画の社会史』(平凡社

ポール・バロルスキー『とめどなく笑う』(ありな書房)

 

高階秀爾ルネッサンスの光と闇』(中公文庫)

ルネッサンスの光と闇―芸術と精神風土 (中公文庫)

ルネッサンスの光と闇―芸術と精神風土 (中公文庫)

 

 

 

 

 

かれん『新選組美男五人衆』

 

新選組美男五人衆 (フラワーコミックス)

新選組美男五人衆 (フラワーコミックス)

 

かれんさんの新選組漫画は絵が少女マンガチックなので、どうなんだろうと思いがちだけれど、見た目に反して(失礼!)、内容はかなりしっかりとしてます。『歳三梅いちりん』がなかなかよかったので、こちらの『新選組美男五人衆』はかなり期待して読みました。結果、期待を裏切らない出来…!

「美男五人衆」というのは、子母澤寛の『新選組物語』に出てくるエピソード(「隊中美男五人衆」)から。五人衆というからには5人の美少年がいるわけで、そのうち箱館戦争を戦い、明治を生きた山野八十八を主人公としています*1。本巻は新選組となる以前、「壬生浪士組」と名乗っていた頃の新選組を描いています。そして、ちょこちょこ出てくる副長がやっぱりカッコイイ。美男五人衆は今でいうアイドルみたいな感じと思う。

新選組物語―新選組三部作 (中公文庫)

新選組物語―新選組三部作 (中公文庫)

 

かなりのんびり描かれているそうで、続編がなかなか出てくれないのが不満といえば不満かな~。BL漫画ではないけれど、史実として確かに新選組内で男色が流行っていたというのがあるので、若干その要素が強めな描かれ方がなされています。完全なる捏造ではないし史実だからと思えば、まったく受け付けない方をのぞいて、普通に読めるんじゃないかなー…と思います。

ところで、大島渚監督の『御法度』は男色がテーマですよね(原作は『新選組血風録』)。随分以前から見ようとはおもっているんですけどね……土方さんの配役が不満すぎてなかなかその気にならないのだった。


御法度(予告) - YouTube

 

ちなみに、上記の『歳三梅いちりん』は流泉小史の『新選組剣豪秘話』に書かれている「吉原田圃の大喧嘩」というエピソードを大きくふくらませた、新選組副長以前の土方歳三の物語です。このエピソード自体は創作だと言われているのですが、あまりにも「バラガキのトシ」のイメージにぴったりすぎて、こういうことがあっても別に不思議じゃないというか、史実と言われても信じてしまいそう。

歳三梅いちりん〜新選組吉原異聞〜 上 (クイーンズコミックス)

歳三梅いちりん〜新選組吉原異聞〜 上 (クイーンズコミックス)

 

この表紙なので買うのが少し恥ずかしいですが、幸いなことに電子化されてます。デジタル最高! ここのところ、漫画はすっかりデジタルばかりになりました。すぐに増えるので場所をとらないのは本当にいいです。引越を間近に控えているので、なおさらそう思うわ…。

 

 

 

 

*1:※個人的に私も山野さんに注目してました。理由は作者さまと一緒。箱館まで行った人だから(単純)

ルネサンスの隠秘学・神秘思想―必読文献まとめ―(原典編)

伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』(講談社学術文庫)を読み終えたところですが、参考文献リストが詳しく、なかなかよくできているということで、これをもとに必読文献をリストアップしておきたいと思います(和書オンリー)。これは読んでおきたいという個人的な備忘録です。本書自体のレビューは、後日メディア・マーカー上に書く予定。

(※隠秘学=オカルト。現代的意味ではなく、隠れたる学という意味で理解すべし)

■原典

アウグスティヌス神の国』『告白』

アリストテレス『ニコマコス倫理学

アルチャーティ

エンブレム集

エンブレム集

 

 ■アルベルティ

絵画論

絵画論

 

 同

建築論

建築論

 

 

ウェルギリウス『アエネイス』(岩波文庫)『牧歌・農耕詩』※『神曲』を読み解くうえでも必読ですよね。 

オウィディウス『祭暦』(国文社)

キケロ『神々の本性について』

セネカ『恩恵論』

ダンテ『神曲』※絶賛読書中。

エティエンヌ・タンピエ『1277年の禁令集』(『盛期スコラ学』「中世思想原典集成」平凡社

ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝』(岩波文庫)※既読

ディオニュシオス・アレオパギテース『神名論』『神秘神学』※いずれも下記所収

ギリシア教父の神秘主義  キリスト教神秘主義著作集 <1>

ギリシア教父の神秘主義 キリスト教神秘主義著作集 <1>

 

トマス・アクィナス神学大全

バルバロ「ミランドラ宛の書簡」(『イタリア・ルネサンスにおける人間の尊厳』、ミランドラの「バルバロ宛の書簡」も同書中)

ピーコ・デッラ・ミランドラ フィチーノとともに最重要

『人間の尊厳についての演説』(『ルネサンスの人間論――原典翻訳集』有信堂高文社

フィチーノ

『饗宴注解』(『恋の形而上学』国文社)

『書簡集』(『ルネサンスの人間論』)

『「ピレボス」注解』(国文社)

プラトン『アルキビアデスⅠ』『ティマイオス』『パイドロス』 プラトンを読まずにネオプラトニズムを語るのは本末転倒だろう。

■ブルクハルト ※19世紀の歴史書

イタリア・ルネサンスの文化〈1〉 (中公クラシックス)

イタリア・ルネサンスの文化〈1〉 (中公クラシックス)

 

プロティノス『エネアデス』※抄訳だけどこれが手に入れやすいと思う

エネアデス(抄)〈1〉 (中公クラシックス)

エネアデス(抄)〈1〉 (中公クラシックス)

 

 ■ヘシオドス

神統記 (岩波文庫 赤 107-1)

神統記 (岩波文庫 赤 107-1)

 

■ペトラルカ ※いろいろな版がありそうなので後で探してみる

ヘルメス文書 

ヘルメス文書 (1980年)

ヘルメス文書 (1980年)

 

ホラティウス『詩論』

ポルピュリオスプロティノス伝』(『プロティノス全集Ⅰ』中央公論社

ヤンブリコス『ピュタゴラス伝』 ※国文社からも出ているけれど、下記2011年刊のこちらのほうがいいかも(これが「ピュタゴラス伝」かどうかをまず調べないと…)

ピタゴラス的生き方 (西洋古典叢書)

ピタゴラス的生き方 (西洋古典叢書)

 

 ルルス『大いなる術』(F.イェイツ『記憶術』所収?)※あとで調べる

記憶術

記憶術

 

 ※和訳の出ていない本もかなりある。下記の本に、もしかしたらいくつかのテクストが含まれているかもしれない。

原典 イタリア・ルネサンス人文主義

原典 イタリア・ルネサンス人文主義

 

 

■仏訳(読めるのでこちらもちょろっと……)

スコラリオス『アリストテレス擁護』(OEuvres complètes de Gennade Scholarios)

ゾロアスターカルデア人の託宣』(E. de Places, Oracles chaldaïques avec un choix de commentaires anciens)

フィチーノ『饗宴注解――愛について』(R.Marcel, Commentaire sur le Banquet de Platon) →上記『恋の形而上学』(国文社)

――『プラトン神学』(R. Marcel, Théologie platonicienne de l'immortalité des âmes, 3vols, )

プレトン(・ゲミストス)『ゾロアスタープラトンの教説要約』『法律論』(C.Alexandre, Pléthon, "Traité des Lois")

ヘルメス文書『アスクレピオス』("Asclepius", Festugière, Hermès Trismégiste) ※同書中にはCorpus hermeticum(ヘルメス文書)も

 

 

覚醒する怪物

 

薔薇王の葬列(2) (プリンセス・コミックス)

薔薇王の葬列(2) (プリンセス・コミックス)

 

リチャードが父上の死を知って本格的に化物へと変容する巻でした。原作は言うまでもないが、シェイクスピア『リチャード3世』

薔薇戦争百年戦争の後に起こる英国内での内乱。英国史に疎すぎて、このあたりの時間軸ですら全然把握できていないという……。ストーリー中にジャンヌ・ダルクの亡霊が出てくるのは、そのため。

薔薇戦争

ヨーク家が白薔薇、ランカスター家が赤薔薇。基本から学ばないと本当にさっぱり。漫画だけでもストーリーは追えるけれど、基礎知識がないと歴史のほうが頭に入ってこない。ヨークもランカスターも、どちらもエドワード3世の血筋なので、薔薇戦争自体は、いわばお家騒動のようなもの。

1460年のノーサンプトンの戦いでヨーク派が勝利してヘンリー6世を捕らえ、ヨーク公は王位を目前にするものの、スコットランドの援助を受けたマーガレット王妃の反撃を受けてウェイクフィールドの戦いで戦死した。1461年、マーガレット王妃はウォリック伯リチャード・ネヴィルを破ってヘンリー6世を奪回するが、ロンドンの占領に失敗する。ヨーク公の嫡男エドワードがウォリック伯と合流してロンドンに入城し、新国王エドワード4世に推戴された。(「薔薇戦争Wikipedia

本巻が描き出すのは「第一次内乱」のうち、ちょうどこのあたりのエピソード。そして、マーガレット王妃が非道でコワイ……。なんか全体に女性が恐ろしいものとして描かれている気がする。リチャードの母上も怖い人のようだし。

エリザベス・ウッドヴィルも本巻にて登場。史実によれば、この後どうやらリチャードの兄上(エドワード4世)とウォリック伯とはウッドヴィル一族をめぐって仲違いしてしまうみたいですね。

 原作はこちらのほうで読む予定です。表紙がイマイチだけど、積んであるから。

 ※せっかくブログ持っているのだし、と思い漫画の感想もこちらで書くことにしました。順序ひっくり返っちゃうけど、第一巻も再読したら感想をUPします。

 

 

「煉獄」の誕生

 

神曲 煉獄篇 (講談社学術文庫)

神曲 煉獄篇 (講談社学術文庫)

 

 『神曲 煉獄篇』の冒頭、まえがきにもあるように煉獄という概念が誕生したのは十二世紀のことらしい。より正確には、1150年代以降にあらわれた概念だという。訳者の原さんによると、それまで死後の世界は天国と地獄しか存在せず、現実の身分も貴族階級(聖職者も含む)とそれ以外の人々(農民など)の二階級しか存在しなかった。だが、商業経済の発展により都市が勃興し、この頃に「市民」という第三の階級が出現する。そして、現実の身分階級が三つに分かれるのと呼応するかのように、死後の世界も地獄・煉獄・天国の三つに分かれたのだという。

 つまりは、煉獄の誕生と市民の誕生とは軌を一にしているわけですね。
 現実社会の階級に応じて死後の世界もというあたりに、妙に合理的というかヨーロッパ的な発想を感じてしまう。とはいえ、現実の身分が死後にまで引き継がれるわけではみじんもないのだが。

■語源
 フランス語で煉獄はPurgatoire、イタリア語ではPurgatorioという。語源はいずれもラテン語のPurgatoriumだが、この語に明らかなように、「浄める」「浄化する」という意味を持つ。

煉獄(れんごく、ラテン語: Purgatorium)とは、キリスト教カトリック教会の教義で、天国には行けないが、地獄に墜ちるほどでもなかった死者が清めを受ける場所のことである。『カトリック教会のカテキズム』では、「神の恵みと神との親しい交わりとを保ったまま死んで、永遠の救いは保証されているものの、天国の喜びにあずかるために必要な聖性を得るように浄化(清め)の苦しみを受ける人々の状態と説明する(Wikipedia「煉獄」)

 地獄に堕ちるほどではない罪を犯した死者が、罪の浄化をする場であるので、澁澤龍彦のようにむしろ「浄罪界」としたほうがイメージしやすいかもしれない(『胡桃の中の世界』)。これもまた前回と同様だが、ダンテの煉獄は、地獄が地底世界にある蟻地獄のような逆円錐形であるのに対し、煉獄はそれを完全に倒立させたような山となっている。七つの大罪に相当する七つの環道に、前煉獄と地上楽園を加えた九つの層からなり、バベルの塔にもどこか似た形状をしている。

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■そして、やっぱりなんか萌える
 試練の山のごとく煉獄山をひいこらいいながら登っていくダンテとウェルギリウス。その途次、ローマ詩人のスタティウスと出会い、三人で地上楽園へと到達するが、そこでダンテはベアトリーチェとついに邂逅を果たし、ウェルギリウスとは別れることとなる。師匠とはいえ、ウェルギリウスは異教徒なので天国へは行けない。地獄の住人なんですよね。この別れというか、いつの間にか先生がいなくなっていたことにダンテが気づくシーンがね、もう萌え萌えなんですよ……本当にもうどうしてくれようかと。
 三十歌より引用:

だが、ウェルギリウスは私達を残して
立ち去っていた、ウェルギリウス、やさしい父は、
ウェルギリウス、救いを求めて私自身の身を託した方は。

 滂沱の涙を流しながら、名前を三度も呼ばわるという。そして、ダンテのこの反応に対するベアトリーチェの言がかなり手厳しい。「海将」に喩えられるあたり、ベアトリーチェは優しい母や花の乙女のようなイメージではまったくないようだ。『神曲』を読む前は、勝手にそんなイメージを抱いていたのですが、完全に予想が外れましたね。

「ダンテ、ウェルギリウスが行ってしまったからといって、
まだ涙を流してはならぬ。まだ涙を流してはならぬ。
これとは別の剣によりおまえは涙を流さねばならぬ」。

 三回名前を呼ぶのに対し、「涙を流す」というフレーズも三回繰り返されている。ここで「三」という数字が反覆されるのにも何か意味があるような気がするけれども、研究者ではないので深い意味がありそうだと推測するだけにとどめておきます。まあ聖三位一体の三だし、それに『神曲』の中では散々こういう秘数が出てくるので、何らかの意味があってもおかしくはない。そして、これが三十歌であるという点も無意味ではないのだろうな……。
 本当はル・ゴフの『煉獄の誕生』を読んでから詳しいことを書きたかったのですが、ちょっと時間がかかりそうなので、とりあえず軽く書くにとどめておきました。後日、秘数についても少しリサーチしたいと思っています。種村季弘の本を読んだ時も出てきたはずなので。というか、すでに地獄篇も煉獄篇も再読したほうがいいような気になっているところ。延々とループすることになったらどうしよう。それもまた、いとをかし?

 【追記】ウェルギリウスについて知りたい方はこちらをどうぞ



 

 

地獄の形は漏斗形

■かなり以前からダンテの『神曲』は課題図書のように見なしていたにも拘わらず、却ってそれがゆえかなかなか手を出せずにいたのですが、この度新訳刊行を機にようやく手にとってみました。現時点で、煉獄篇まで読破。

 西洋の歴史と文化を理解するうえでキリスト教は必須であると思うが、美術は好きな割にたぶん宗教としてのキリスト教に対して苦手意識があったせいか、なかなか手が出なかったのです(『聖書』も未読なんです……恥)。キリスト教文学なのに、なんで異教徒のウェルギリウスが出てくるの? とは疑問に思ってましたけどね……疑問を持ちつつも、追及さえせなんだというダメっぷり。本当に反省してます。結論からいって意外と面白いですね。フィレンツェや当時のヨーロッパの歴史(特に政治史)を知らないとわかりずらい面も多々ありますが、その点今回の新訳は微に入り細を穿つような懇切丁寧な解説がついているので、初学者にもわかりやすい。特に当時の皇帝派と教皇派の対立を軸に読み解いていく手腕は一驚に値する。

神曲 地獄篇 (講談社学術文庫)

神曲 地獄篇 (講談社学術文庫)

 

 ■教皇派と皇帝派 - Wikipedia

 アリギエーリ家が属していたのは教皇派のうち白派であり、ゲルフ(教皇派)内の黒派vs.白派の対立抗争の結果、ダンテはフィレンツェを追われることとなる(白派の敗北)。だが、教皇派とはいえ、ダンテ個人は皇帝ハインリヒ7世に理想の姿を見ていたらしく、皇帝派を擁護するような書き方をしている箇所が多々ある*1。ダンテは教皇庁による世俗権の拡張を非難しており、聖俗の完全分離を説いている。煉獄篇を先取りすると、「二つの太陽」のイメージにより、教皇権と皇帝権を同格のものと描いている。

 ■地獄の形態 

 表紙にあるようにダンテの地獄は逆円錐形、漏斗の形をしているが、澁澤龍彦によると『聖書』にある地獄を、具体的に描き出したのは西欧においてはダンテが初めてらしい*2

ダンテの宇宙の発生原因が、聖書の歴史的記述とぴったり一致し、おそらくダンテが西欧で初めて、螺線形の地獄の性格な構造を描き出した作家である(「螺旋について」) 

 地獄は全部で九つの圏からなり、最奥・最下層には堕天使ルシファー(ルチフェロ)がいる(ちなみに、彼が堕天した時の衝撃で反対側が隆起してできたのが煉獄。だから煉獄は山)。これは全宇宙の中心に地球があるとしたプトレマイオスの宇宙観にもとづいている。宇宙の中心たる地球のそのまた中心にルシファーがいる。澁澤の指摘にあるように、あたかもバベルの塔を倒立させたかのような形状をしている。

 この新訳の表紙の絵はボッティチェリの『地獄の図』(1490年)なのだが、どういう経緯でボッティチェリが描くことになったのかがぜひとも知りたいですね。まあ調べろよ、ってことなんだけど。

■そして、なぜか萌える

 ところで、暗い森のなかをさまよっていたダンテは「理性」の象徴であり、敬愛する詩人ウェルギリウスに出会い、彼の案内により地獄を経巡るわけですが、地獄の水先案内人ウェルギリウス先生が地獄初心者のダンテをなにくれとなく世話を焼いてくれちゃうのですが、ちょっと世話やきすぎじゃない? と思ってしまうほど。師弟萌えが好きなら妄想しちゃうことほぼ確実であると保証します。

神曲
読めば読むほど
師弟萌え

なんていう萌え川柳も詠んでしまいました。アホですいません。

本書それ自体の詳細なレビューについては、下記を参照のこと:

Éd/zotérique / 神曲 地獄篇 (講談社学術文庫) - メディアマーカー

こちらでは主に形式面について云々してます。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:チェーザレ』にもそういったエピソードが描かれていたと思う※要確認

*2:『胡桃の中の世界』