Éd/zotérique

読書の備忘録

欲望の隠喩としての獣、あるいは欲望の具現としての魔物

なんか油断してるとまたつい放置になってしまいます。ブログ持ってる意味あるのかなあと思いつつ、メディアマーカーより転載です。

こちらのサイト(書評でつながる読書コミュニティ - 本が好き!)でも書評という名の感想文を書いているのですが、2級に昇級して早速、献本を申し込んだら2回目で当たりました。

 【感想】

 数年ぶりの再読。意外と内容はあまり憶えておらず、一文一文を味読するように、文字通り言葉を味わいながらの読書となりました。タニス・リーの書くものは決して一筋縄ではいかない。昨今のわかりやすさを志向する文章であれば、ただ一言「~した」で済む行為を、譬喩と修飾を連ねながら重層的なイメージによって、描き出そうとするので。
 本書、『幻獣の書』はエメラルドとアメジスト、緑と紫を基調として、古代ローマ時代にまで遡るデュスカレ家の呪いを描き出す。デュスカレの屋敷に下宿することになった大学生ラウーランは、そこにいるはずのない若い女と出会う。彼女、エリーズが詳らかにする夫エロス・デュスカレとの破局の物語。中盤に挿入された「紫の書 紫水晶を出でて」は、ガロ・ローマン時代のパラディスにおいて、ローマ軍人ウスカが魔物の呪いを受けるに至る顛末を語る。
 パラディスというのはパリのパラレルワールドであるのだが、シリーズの他の作と同様、実在のパリと同じ歴史を背負っている。現実のパリはエジプトのイシス女神と由縁のある街なのだが、特に本書中のローマ時代の話には、イシス神殿などが登場することもあり、しきりとバルトルシャイティスの『イシス探求』を連想した。
 本書の原題は、「The Book of the Beast」だが、魔物の呪いのそもそもの発端が、ローマ軍人ウスカがクリストス教徒(キリスト教徒)の奥さんとうまくいかず、娼婦の元を訪れたことに発していることを考えれば、『幻獣の書』における〈獣〉とは性欲のもつ悍ましさ、恐ろしさといったものを虚構という大いなる比喩によって表そうとしたものだと言いうるかもしれない。
 そして、やはり浅羽莢子さんの訳文が素晴らしすぎて、もう浅羽訳による新訳タニス・リーが読めないのが、返す返すも惜しい。

 

【参考図書】

イシス探求 バルトルシャイティス著作集 (3)

イシス探求 バルトルシャイティス著作集 (3)

 

 

あと、以前からこちらの本も読もうと思ってたんだけど、ローマの話が出てきて興味が湧いたついでに読もうかしら。

ミトラの密儀

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