Éd/zotérique

読書の備忘録

看護者・聖ユリアヌスについて

 ブログ書くのがお久しぶりすぎて、めちゃくちゃ戸惑っています。
2年ぶり、とかさすがに放置しすぎだろ……。
 だいぶ前から、やろうと思っていた翻訳ができましたのでそれについて所感というか、感想みたいなことを書いてみようかと思います。
 翻訳のあとがきにも書いたような内容ですが、ウェブで2万字くらいのものを読むのって、結構骨が折れるので、最後までたどり着ける人は少ないと思われます……。というわけで、概要というか背景知識をさらっとまとめてみました。

 

 翻訳はこちらになります。

note.mu

 noteよりもカクヨムのほうが読みやすいので、若干の修正を入れたものをカクヨムのほうにもUPしました(2017.08.05追記)。
フローベールは海外文学に興味あるかたなら、大抵ご存じだと思います。

ギュスターヴ・フローベール - Wikipedia


 代表作は『ボヴァリー夫人』であり、「写実主義を確立」なんて言われると、近代小説のイメージばかり先行してしまいそうですが(自分もそうでした・汗)、『聖アントワーヌの誘惑』のような伝説を題材とした作品もあります。
『三つの物語』は、タイトルから推測できるように、三つの短い物語(コント:conte)が含まれており、順番に列挙しますと、
1.Un coeur simple(純なこころ)
2.La légende de Saint Julien l'Hospitalier(聖ジュリアン伝=看護者・聖ユリアヌスの伝説)
3.Hérodias(エロディアス=ヘロディアス)
 最初の「純なこころ」は、フローベールが生きた同時代の話なので、ボヴァリー夫人に雰囲気的にも近いものがあると思います。この中に出てくる晴雨計について、小説における描写との関わりで、ロラン・バルトがなんかいろいろ書いていたりするのですが、これはまあ余談です。
 二番目は看護者・聖ユリアヌスという中世に生きた聖人のお話。こちらはフローベールの故郷であるルーアン大聖堂のステンドグラスにその物語が描かれています(作品をご参照ください)。ルーアンの大聖堂はクロード・モネが連作を描いていますので、そちらのほうがよく知られているかと思います。

クロード・モネ-ルーアン大聖堂、扉口とアルバーヌの鐘塔、充満する陽光-(画像・壁紙)


 ちなみに残念なことに、ルーアンは行ったことがなくて、実物も目にしておりません。こちらの方が写真をUPされています。
 最後の「エロディアス」は、ヘロディアス。ヘロディアの娘、サロメといえば、有名なので説明は不要でしょう。こちらは同じくルーアン大聖堂の正面入口のティンパヌムに彫り込まれているようです(上記サイトに同じく写真があります)。
 
 今回、練習として訳したのは、二番目の「聖ジュリアン伝」です。フランス語読みすればジュリアンですが、ラテン語読みではユリアヌスとなります。ユリアヌスと言われると、辻邦生の小説でも有名な背教者ユリアヌスを連想してしまうかもしれませんが、背教者のほうではありません。こちらは古代ローマの皇帝なので、時代がまったく違います。
 看護者ユリアヌスは、中世に生きたとされる聖人です。
 
看護者・聖ユリアヌス(ジュリアン)とは:
「聖ジュリアンはその生涯の物語の大半が伝説とされる人物である。どこまでが史実なのかは不明である。大工、旅籠屋、そして渡守の守護聖人であり、鷹と剣がこの聖人のアトリビュートとされている」(Wikipedia, "Julien l'Hospitalier")
 
 Wikiによると『黄金伝説』によって中世に広範に広まった伝説だとのこと。
 物語の中では、伝えられている伝説とは異なり、親殺しの後、奥さんと別れ一人で旅立ったことになっています。中世を舞台とした物語なので、ラテン語名の「ユリアヌス」ではなく、フランス語読みで「ジュリアン」としました。
 作中に出てくる黒い鹿は私が思うに、シシ神ではないかと思う(笑)。聖人伝には、主にケルトの異教的な名残や痕跡が見られることが多いので、もしかしたらケルトの伝承にも出てくるケルヌンノスとか森の神のような存在なのかもしれませんね。聖人伝やカレンダー(聖人の日)とパガニスム(異教信仰)の関わりについては、ヴァルテールのこちらの本が大変おもしろいです。
 

nefou55.hateblo.jp

 

 ヴァルテールの著作はこれ以外は翻訳が出ていないようなのですが、アーサー王伝説についてもたくさん書かれていて、どの著作も非常に示唆に富み、興味深い指摘が多いです。これについても、ぼちぼちまとめられたらいいな、と思っています。だいぶ前からこれもやろうと思いつつ、忙しさにかまけてできずにいましたので、今後の課題です。ちなみに、ヴァルテールによるとアーサー王は熊だそうです(!)
 

 参照した既訳: 

三つの物語 (岩波文庫)

三つの物語 (岩波文庫)

 

 参考図書:

黄金伝説 1 (平凡社ライブラリー)

黄金伝説 1 (平凡社ライブラリー)

 

 

中世の祝祭―伝説・神話・起源

中世の祝祭―伝説・神話・起源

 

 

 ここまでお読みいただきどうもありがとうございました。